コーチはプロセスの専門家

「コーチはプロセスの専門家だから、あなたがどう悩んでいるか?はどうでもいいんだよ。それよりも、一体あなたどう感じているの?どうしたいと思っているの?」

最初に聞いた時とてもビックリした。

それまで聞くってことが大切!って散々教わったので、虚心坦懐。とにかくひたすら聞こう、聞こうとしていた。

あげくクライアントさんの話を一時間近くずっと聞いて、ぜんぜん先に進まないってこともあった。でも聞こうとしていた。

それなのに、悩んでいる内容はどうでもいい!ってどういうこと?って。

同時にそれまでの「コーチングって温かい」ってイメージが崩れる想いだった。聞かないで、何を聞こうというのだろう?それって何を聞こうとしているのだろう?ひどく冷たく感じた。それってコーチのエゴじゃないか?とも思った。


それが先日フォーカシングのセミナーに出て、成る程!と腑に落ちた。

フォーカサーは、その気持ちの元になっている出来事のあれこれをリスナー(ガイド)に説明する必要はない。今、この場で感じ取っている自分自身の気持ちすら、リスナー(ガイド)に全部説明する必要はない。漏れ出る気持ちを吐き出すだけ。

それはどんな感じだろう。挨拶できそう?巨大で飲み込まれそう?その感じにはどんな言葉が合うだろう。こんな感じ?いいや、こっちかな。………。じゃ、いろいろ聞かせてくれてありがとう。またね。

そっか気持ちだったんだ。どんな気持ちなのか?移りゆく移ろいやすい感じに焦点を当てるだけで、自然とああって気がつく。急いでバタバタしていたけど、私こんなことを感じていたんだぁって。そしたら、グルグルが止まって、ああこうしたいって気持ちが自然と浮かび上がった。

そしてプレゼンス(存在)。そこにただただ聞いてくれる人がいるだけで、なんか場ができる。外から見ているオブザーバーには見えない、二人だけの場。何かがそこで動いている。

共にいるってこと。言葉はいらない。何にもしなくて、まなざしをフォーカサーに柔らかく向けているだけでOK。感じるから。その存在を。なんか包まれているって感じが伝わってくる。存在そのものが語りかけてくる。

言葉に乗せて、気持ちを吐き出し、心の中にスペースを空けるだけで、ホッと一息。あ、今私こんなことを本当はやりたいって思っていたんだ。こんな気持ちが私の中にあったなんて知らなかった!

掴み直した気持ちはしなやかで、たくましい。うん。この気持ちも私の中にある。ああ、この気持ちも私の中にある。いやーな気持ちでも、個性があって、ちゃんと主張している。そっか。あなたこんな気持ちを抱えていたんだ。ありがとう。よく表現してくれたね。確かにあなたも私の大切な気持ち。嬉しい気持ちも語りかけてくれる。そっか。それがあなたのうれしさの元なんだね。ぜひ次には周りの人に伝えてあげよ。こうしてくれると、私は嬉しいですって。


なぜって原因追及されるより、どうしたい!どうなったらいいって思っているの?ってありたい姿に焦点を当てた方がやさしい。そんな時のあなたってどんな気持ちなの?それをすると何をあなたは手に入れるの?

それらの大元にあるのが、気持ち。丁寧にゆっくり感じてみよう。心の声の泉に耳を澄ませてみよう。うつりゆくかげろいの中、かすかだけど確かにここでそれは息づいている。その声に耳を傾けられた時、そこに自然体の飾らない、ありのままの人がいる。その存在こそ、周りに影響を与える人。輝きを持った人。それは誰の心の中にも秘められたすばらしい潮のパワー。

心のメッセージを聴く
池見 陽著
講談社 (1995.3)
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